最澄はこの智の思想を受けて、日本に天台宗を成立せたわけです。
その教えには、理論的な面と実践的な面がみられます。
理論的な面では、人は仏になる種(仏性)を持っているため、だれでもすべて成仏することができると主張しています。(『法華経』の思想に基づいているわけで、一乗思想といわれています。)
これを経文により示せば、「一切衆生悉有仏性」(『涅槃経』)→「一切衆生悉皆成仏」ということになります。
実践的な面では、純粋に天台宗の教えを実践する止観業と、密教を実践する遮那業とが説かれています。
このほかに、『梵網経』に基づいた菩薩戒を受けることも強調されています。
この二つの業のうち、止観業のより具体的な修行法とて、最澄は『摩訶止観』に説かれている常坐三昧、常行三昧、半行半坐三昧、非行非坐三昧の四種三昧法を取り入れています。
常坐三昧とは一仏に向かい、九十日間坐り、実相を観ずる行法です。常行三昧とは九十日間、阿弥陀仏の名を唱え、像のまわりをまわる行法です。
半行半坐三昧とほ仏像のまわりをめぐり歩く行と、坐禅の行とが兼ねそなえられた行法です。
非行非坐三昧とは前述の三種の三昧以外のすべての行法です。
このように見てくると、最澄の天台宗の教えとは、四種三昧の行法や密教の行法を通して、だれでも成仏することができる教えということができます。
また、この四種三昧にみられるごとく、天台宗には『法華経』の思想、浄土教の思想、禅の思想、密教の思想などが融合してあったことが知られます。
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